云い出した。
「泰平の御世《みよ》だ、人など切れるか」
「では解らないではございませんか。……はたしてお強いかお弱いか?」
「鐘巻流では皆伝だよ。年二十三で皆伝になる、まあまあよほど強い方さ」一式小一郎は唇を刎《は》ね、ニヤニヤ笑ったものである。
「お侍様というものは、お強くなければいけません」
「だからさ、強いと云っているではないか」
「ねえ、あなた」と阪東小篠は、そそのかす[#「そそのかす」に傍点]ように云い出した。
「一度でも人をお切りになった方は、度胸が決まると申しますねえ」
「どうやらそんな話だな」
「お侍様というものは、度胸がなければいけませんねえ」
「云うまでもないよ」と小一郎は笑止らしく横を向いた。
「あなたに度胸がありますかしら?」
「あるともあるとも大ありだ」
「人を切ったこともない癖に」
「小篠!」と云うと小一郎は、ちょっと睨むように相手を見た。「何か目算がありそうだな」
「何んの何んのどう致しまして」小篠は例によって笑ったが、微妙な笑いであると共に、吸血鬼《バンパイヤ》的の笑いでもあった。「ねえ、あなた、ただ妾《わたし》はこう云いたいのでございますよ。――すべて
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