女というものは、男が度胸を見せた時、すぐ飛びかかって行くものだとねえ」
「うむ、惚れるということか?」
「はいはいさようでございます」
「なるほど」と云ったが小一郎は、いくらか物憂そうに考え込んだ。と、話題をヒョイと変えた。
「それはそうとオイ小篠、南部集五郎はやって来るのかな?」
「よくお呼びしてくださいます」
「あいつも根気がいい方だなあ」
「ホッホッホッホッ、あなたのように」
「そうさ、俺だって根気はいいよ。……ところで小篠、どっちが好きだな?」
「南部様もそんなことをおっしゃいました。――一式|氏《うじ》とこの拙者と、どっちにお前は惚れているかなどと」
「で、どっちに惚れているのだ?」
「どっちがお強うございましょう?」
「ふふん、それでは強い方へ、お前はなびく[#「なびく」に傍点]というのだな?」
「そんな見当でございます」小篠は妖艶にニッコリとした。
「そうか」
と云うと一式小一郎は、ズイとばかりに立ち上がった。「小篠、それではまた会おう」
「もうお帰りでございますか」
「うん」
と云うと部屋を出た。
ここは深川の、桔梗《ききょう》茶屋の、その奥まった一室である。一人
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