」に傍点]上がるほど充たされている。
 パチパチパチパチと音がする。暖炉で燃えている火の音である。暖炉の上に置かれてある花は、五月に咲くというトリテリヤである。温室花に相違ない。床には絨緞が敷かれてある。やはり昆虫の模様があり、その地色は薄緑である。
 それは黒檀に相違あるまい、しなやか[#「しなやか」に傍点]に作られた卓子《テーブル》の上に、幾個もの虫箱が置いてある。いや虫箱はそればかりではない。ほとんど無数に天井から、絹紐をもって釣り下げられてある。で、この部屋へはいる者は、多少頭を下げなければ、その虫箱に額をぶッつけ[#「ぶッつけ」に傍点]、軽傷を負わなければならないだろう。
 一方の壁に扉がある。隣り部屋へ通う扉らしい。
「誓ってこの扉をひらくべからず」
 こういう張り紙が張られてある。秘密の部屋に相違ない。
 もう一つの壁にも扉がある。それは廊下への出入口で、その扉にも昆虫の図が、彫刻《ほ》られてあることはいうまでもない。
 窓から日光が射し込んでいる。その日光に照らされて、書き物|卓子《づくえ》が明るく輝き、一枚の図案を照らしている。図案というより模様と云った方がいい。微妙
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