させていけません」
十七
ここは昆虫館館主の部屋で、和蘭陀《オランダ》風に装飾《よそお》われている。壁に懸けられたは壁掛けである。昆虫の刺繍が施されてある。諸所に額がある。昆虫の絵が描かれてある。天井にも模様が描かれてある。その模様も昆虫である。戸外《そと》に向かって二つの窓、その窓縁にも昆虫の図が、非常に手際よく彫刻《ほ》られてある。窓を通して眺められるのは、前庭に咲いている花壇の花で、仄かな芳香が馨って来る。長椅子、卓子《テーブル》、肘掛椅子、暖炉、書棚、和蘭陀《オランダ》箪笥、いろいろの調度や器具の類が、整然と位置を保っている。特に大きいのは書棚である。幅一間、高さ一間半、そんなにも大きい頑丈な書棚が、三|個《つ》並列して置かれてある。だがそれでも足りないと見え、塗り込めになっている書棚があり、昆虫を刺繍した真紅《まっか》の垂《た》れ布《ぬの》が、ダラリと襞をなしてかかっている。いやそれでも足りないと見え、二|個《つ》の瀟洒とした廻転書架が、部屋の片隅に置かれてある。さてそれらの書棚であるが、日本の書籍などきわめて少く、大方洋書と漢書とで、ふくれ[#「ふくれ
前へ
次へ
全229ページ中63ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング