リと取り巻いているのは、まさしく偉観と云ってよかった。で、この場の風景は、こんなように形容することが出来る。大森林という円筒の中に、穏かな池と可愛らしい家と、そうして美しい花壇とが、こっぽり[#「こっぽり」に傍点]囲まれて出来ていて、そこで大勢の人達が、さも愉快そうに働いていると。――
全く大勢の人達が、そこで働いているのであった。家の中にも人がいる。家の外にも人がいる。みんなクルクルと動き廻わっている。男もいれば女もいる、年寄りもいれば子供もいる。笑い声、話し声、唄い声、それが快い合唱《コーラス》となって、大池の方へ蒔かれている。何を働いているのだろう? 昆虫館の館主のために、各自の仕事をしているらしい。
森林にかこまれているためか、寒い風など吹いて来ない。季節はたしかに一月だが、気候から云えば三月のようだ。いい天気だ、あたり明るく、小鳥が八方で啼いている。桃源境! 別天地! だが不具者《かたわもの》の社会でもあった。
と云うのはそうやって働いている、大勢の人間の一人一人が、片耳であったり片足であったり、てんぼう[#「てんぼう」に傍点]であったり盲目《めくら》であったり、唖者《
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