[#「ぶつかる」に傍点]ばかりだ。「どうなるものか、ぶつかってしまえ」
早くも決心した一式小一郎は、素早く四辺を見廻わしたが、足場を計るためだろう。「ちょうど幸い大岩がある。こいつを早速楯として、構うものか、叩っ切ってやろう」
及び腰をして待ち設けたが、それとも感付かぬ岩向こうの人数、ガヤガヤ喋舌《しゃべ》りながら近付いて来た。その時小一郎は声をかけた。
「ご用心!」とまず一声! それから凛々と云ったものである。
「あいやそこへ参られたは、南部集五郎殿をはじめとし、一ツ橋殿のご家中でござろう。その目的は昆虫館探し、何んとさようでござろうがな」ここでちょっと言葉を切り、先方の様子を窺った。
と、ひどく驚いたらしく、足音が止み声が絶えた。がすぐ南部集五郎の、物々しい声が聞こえて来た。
「そういう貴殿は何者かな? いかにも我々は一ツ橋家の家臣!」
そこで小一郎は声を上げた。
「南部氏だな、声で解る。拙者は一式小一郎、貴殿にとっては怨《うら》みあるもの。拙者にとっても怨みがある。小梅田圃では意外のことから、せっかくの果たし合いが中折れ致した。あの夜の続き、今日こそ果たそう。さて次に」と
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