戴いている帽子も和蘭陀風で、清教徒でも用いそうな、鍔広で先が捲くれ上がっている。
八
帽子を洩れた白髪の、何んと美しいことだろう。肩に屯《たむろ》して泡立っている。広い額、窪んだ眼窩、その奥で輝いている霊智的の眼! まさしく碩学《せきがく》に相違ない。きわめて高尚な高い鼻、日本人に珍らしい希臘型《ギリシャがた》である。意志! 強いぞ! と云うように、少し厚手の唇を洩れ、時々見える歯並びのよさ、老人などとは思われない。角張った顎も意志的である。顔色は赧く小皺などはない。身長《みたけ》高く肉附きよく、腰もピーンと延びている。永らく欧羅巴《ヨーロッパ》に住んでいたが、最近帰朝した日本人――と云ったような俤《おもかげ》がある。非常な苦痛を持っていながら、強い意志力で抑え付け、わざと愉快そうに振る舞っている。――と云ったような態度がある。
「ここか、桔梗、吉次もいたか。俺はな、やっぱり諦めようと思う」岩の一所へ腰をかけ、こんな調子に話し出した。「なくなったものなら仕方がないよ。随分手分けして探したが、見付からないのだから止むを得ない。それにさ」と云うとやや皮肉に、「雄蝶一匹
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