たのであった。
 それから小一郎はどうしたか?
 乱闘の場を辛く遁がれ、自分の屋敷へ帰ったのであった。もっとも修羅場を遁がれ出る時、彼はこういう叫び声を聞いた。
「桔梗様を山尼《やまあま》が攫って行く!」と。
 屋敷へ帰った小一郎が、傷付いた体を養いながら、山尼なるものの性質と、その居場所とを調べたことは、云うまでもないことであったが、知ることは出来なかった。
 ただし一旦家を出て、隅田のご前をお訪ねした時、計らずもそれを知ることが出来た。

        四十七

 隅田のご前がこう云ったからである。
「桔梗を山尼が連れて行ったそうだの。いや一切知っておる弁天の松代が話してくれた。いやいや少しも心配はない。桔梗はむしろ安全だろう。と云って捨てては置かれない。……夫婦の間の憎悪《にくしみ》は、恐ろしい結果を呼ぶものだからの……一番不幸なのは昆虫館主さ……が、まあまあそれはよい。この俺が処置をつけてやる。……どっちみち桔梗だけは安全だよ。……と云ってお前の身になってみれば、安心してはおられまい。山尼の何者かを知りたかろう。では簡単に話してやろう。山岳|行脚《あんぎゃ》の尼僧の群だ。と云
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