を利いている。
「いやはやいやはや偉いことになったぞ、こんな俺のようないい年をした者が、草鞋穿《わらじば》きでテクテク三浦三崎などへ、出て行かなければならないのだからなあ。……そうは云ってもよい景色だの。一方は海岸一方は野原、秋草も綺麗に咲いているわい」
 葵の紋服など着ていない。無紋の単衣《ひとえ》にぶっさき[#「ぶっさき」に傍点]羽織、自然木の杖をついている。顔を見られるのを嫌ったからだろう、編笠を目深に冠っている。
「そうは云ってもひょっと[#「ひょっと」に傍点]かすると、今度は大騒動になるかもしれない。私は騒動は嫌いでな。わけてもちっぽけ[#「ちっぽけ」に傍点]な日本国内で、いがみ[#「いがみ」に傍点]合うことなどは大嫌いだよ。……と云ってもどうも今度ばかりは、うっちゃって置くことは出来そうもないよ……。何しろこの私の兄にあたる、昆虫館主がやられる[#「やられる」に傍点]のだからなあ……。そうは云っても一方から云えば、私にはこの旅が面白いのさ。久しぶりで兄弟と逢えるのだからなあ。……お前達にとっても楽しかろうよ、変わった建物が見られるのだからな。昆虫館という建物さ。……がその代
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