わり間違うと、それこそ本当に腥《なまぐさ》い、死山血河の大修羅場が、演ぜられることになるだろうよ。いやそうなったらお前達が力だ、思い切って腕を揮ってくれ」
「かしこまりましてございます」こう云ったのは松代である。道行《みちゆき》を着てその裾から、甲斐絹の甲掛《こうがけ》を見せている。武家の娘の旅姿で、歩き方なども上品にしている。「ご前のおためでございましたら、どのようなことでもいたします」充分謹んだ言葉つきである。
「ご前という言葉はよくないなあ。お爺さんとでも呼ぶがいい。人目を避けての旅だからな」
「はいはいそれではお爺さん」
「それがよろしい、さて娘や」
 こんな具合に話して行く。
 こうして一同|関宿《せきやど》まで行き、それから森林を分け上り、昆虫館まで行くのであろうが、この頃小一郎と君江とは、例の秩父の中腹を、上へ上へと辿っていた。
「例によりましてあなたの位置は、お気の毒様でございますなあ」こう云ったのは小一郎である。
 それに答えて君江が云う。「大してそうでもございません」
 馬の足掻《あが》きがパカパカと聞こえ、そうして鈴の音がシャンシャンと鳴る。
 少し秋めいた夏の陽
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