そう甲斐|撫《な》でに盗まれるような、そんな永生の蝶でもなく、それにまた蝶を盗まれるような、ヤクザな館主でもない筈だ! お聞き!」と云うと歯を剥いた。惨酷に刺すように笑ったのである。「お前の父親昆虫館館主は、無双の学者で恐ろしい人物、唯一の証拠は最近まで、昆虫館のあり場所を、知らせなかった一事でも知れる。何んの貴重な永生の蝶を、他人に盗まれることがあろう。親子ひそかに巧らんで、どこかへ隠したに相違ない。お云い!」
 と云うとスルスルと、黄金の杖を突き付けた。と滴がポッツリと落ち、ボーッと白煙が立ち上ったが、小穴がまたも出来たものである。
 桔梗様は黙っている。ただ杖の先を見詰めている。云いたいにも云うことがないのである。
 端然として動かない。
 波の音が聞こえて来る。滝の落ちる音が聞こえて来る。依然部屋内は静かである。
 と、どうしたのか冷泉華子は、ガラリと態度を一変した。まず突き付けた杖を引き、片膝を突くと首を延ばし、愛想笑いを眼に湛え、その眼で桔梗様の顔を覗き、猫撫で声で云い出したのである。
「立派なお心掛けでございますよ。そうでなければなりますまい。それでこそ昆虫館館主の令嬢、
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