ようか? 眼につければ眼が潰れる、鼻へ付ければ鼻がもげる[#「もげる」に傍点]、耳へ付ければ耳髱《みみたぼ》が、木の葉のように落ちてしまう! さあさあさあ、それそれそれ!」
そろり[#「そろり」に傍点]と杖を突き出した。距離を五寸に縮めたのである。
「お云い!」と華子はそこで云った。「お前は昆虫館館主の娘、蝶のありか[#「ありか」に傍点]を知っている筈だ! もう一匹、さあどこだ?」
そろそろそろそろと杖を出す。その杖の先と桔梗様の顔と今にも今にも触れ合おうとする。杖の先が顫えている。と一滴その先から、ポタリと滴が床に落ちた。幽かながらもジーッという音! ポーッと立ったは糸のような煙り! 小穴がまたも開いたものである。
怪奇な光景と云わざるを得ない。
龕から射している他界的の光、その中に立っている女方術師、背後《うしろ》で燃えている唐獅子型の火炉、その上に滾《たぎ》っている巨大な釜、……そうしてキラキラキラキラと、黄金の杖が輝いている。そうしてその杖の尖端から、水銀色の滴が落ち、落ちると同時に煙りが立ち、碁盤形の石畳へ穴を穿ける。
怪奇な光景と云わざるを得ない。――
桔梗様に
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