、悲鳴を上げるに相違ない、そうして許しを乞うだろう、見たようなものだ、見たようなものだ! まず!」
というと冷泉華子は、そろそろそろそろと黄金の杖を、斜めに上へ振り上げた。
「打ちはしないよ。何んの打とう、もっともっと凄いことをする。……ご覧!」
と今度は嘲笑った。と、クルリと身を廻わし、釜の方へスルスルと寄ったかと思うと、振り上げていた杖を斜《はす》かい[#「かい」に傍点]に、グーッと釜の中へ突っ込んだ。瞬間湯気が渦巻いたが、すぐに杖を引き出した。尖端《せんたん》から滴たったは水銀色の滴《しずく》で石畳へ落ちたと見る間もなく、どうだろう石畳の一所へ、小穴が深く穿《うが》たれたではないか! 水銀色の滴には、世にも恐ろしい力強い、腐蝕作用があるのらしい。
と、華子であるが腕を延ばすと、スーッと杖を突き出した。桔梗様の顔から一尺のこなた、そこまでやると止めたものである。
「穴が穿《あ》きましょう、綺麗な顔へ! 鉛を変えて黄金とする、道教での錬金術、それに用いる醂麝《りんじゃ》液、一滴つけたら肉も骨も、海鼠《なまこ》のように融けましょう、……さて付ける、どこがいい? 額にしようか頬にし
前へ
次へ
全229ページ中130ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング