たい光がある。
と、リーンと音がした。手に持っていた黄金の杖を、石畳の床へ突いたのである。
「昆虫館主のお嬢様の、桔梗様へお訊ね致します。雌雄二匹の永生の蝶の、その一匹は手に入れました、さようでございます、この華子が! もう一匹の蝶のありか[#「ありか」に傍点]を、さあさあお教えなさりませ」
またも一足踏み出して、またも黄金の杖を突いた。と、リーンと美しい音色が、部屋へ拡がったものである。
事の意外に桔梗様が、ポッカリとその口を無邪気に開け、ポッカリとその眼を無邪気に見張り、しばらく物の云えなかったのは、当然なことと云わなければならない。
もちろん返辞はしなかった。もちろん微動さえしなかった。呆然見詰めているばかりであった。
この桔梗様のそういう態度は、見ようによっては図々しくも、また大胆不敵にも見える。
それが華子を怒らせたらしい。俄然態度を変えたものである。
「オイ」と云ったが、その声は、優しい女の声ではなく、残忍な悪婆の声であった。「処女《おぼこ》に似わず図々しいの、フフンそうか、そう出たか、よろしいよろしいそう出るがいい。が、すぐにも後悔しよう、顫え上がるに相違ない
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