するようなところがある。
彫像である! 動かない! がもしそれが動いたら、一層物凄く思われるだろう。
部屋全体が煙っている。紫陽花《あじさい》色に暈《ぼ》かされている。とは云え煙りこめているのではない。それは光の加減からであった。
穹窿形をした組天井、そこから龕が下っている。瓔珞《ようらく》を下げた龕である。さあその容積? 一抱えはあろうか! 他界的な紫陽花色の光線が、そこから射しているのであった。
部屋の四方は板張りである。板張りは純白に塗られている。釜の据えてある左手に、錦の帳《とばり》が懸けられてある。部屋の外へ通う戸口だろう。深い襞を作っている。襞の窪《くぼ》みは蔭影《かげ》をつくり、襞の高みは輝いている。
足が冷々と冷たかった。で桔梗様は床を見た。床は石畳になっていた。白と黒との碁盤形、それに畳まれているのである。
シン、シン、シンと湯の煮える音! それが唯一の音であった。
が、もう一つ音がした。ドーン、ドーンという音である。岸にぶつかる波の音だ。非常に遠々しく聞こえて来る。
それからもう一つ音がした。ドン、ドン、ドン、ドンという音である。滝の落ちるような音で
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