いったいこの女は? 他でもない桔梗様であった。
と、桔梗様は眼を開けた。
「おや妾はどうしたんだろう?」呟くと衣裳を調えた。「まあ奇妙なお部屋だこと」
で、グルリと見廻わして見た。眼についたのは大釜である。部屋の正面に据えてある。三人以上の大男が、両手を繋いで抱えなければ、抱えることは出来ないだろう――そんなにも大きな釜であった。そこから湯気が上っている。熱湯が湛えてあるらしい。釜の下には火炉がある。焔がカーッと燃えている。釜の形は筒形である。上の方で花のように開いている。そうして周囲には彫刻《ほりもの》がある。どうでも日本風の釜ではない。古代唐風の釜である。火炉もやっぱり唐風である。唐獅子の首だけを切って来て、押し据えたような形である。ワングリ開いた巨大な口! そこが火口になっている。燃えている焔の真紅の色が、まるで血汐でも含んでいるようだ。
火炉と釜との背後《うしろ》にあたって、大きな棚が置いてある。一|個《つ》ではない、三|個《つ》である。で正面の部屋の壁は、棚ですっかり埋められている。棚には幾個か段がある。段には壺が載せてある。壺の数は無数である。そうして形が各自《めいめ
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