巻き付けた血書! そうしてここには銀簪! とするとこれからも要所々々へ、何か品物を落とすものと見える」こう思料深く云ったのは、四十がらみの大男、すなわち大黒の次郎である。
「何はともあれ走ろうぜ」こう云ったのは髯面の男、「突っ立っていたって仕方がねえ」こいつは毘沙門の紋太である。
「そうともそうともさあ行こう」弁天の松代は意気込んだ。「思案している時じゃアない。桔梗様には処女《おぼこむすめ》だ。一刻半時の手違いで、取り返しの付かない身ともなる。それこそ泣いても泣かれない。それにしてもさ、一体全体、どいつがこんなことをしたんだろう。七福神組を出し抜いて、途方もない真似をしゃアがる。と、云って怒ったってはじまらない。見付け出すより仕方がない! ……さあさあお組みよ、手組輿を!」
二十九
声に応じて六人の男は、颯と片手を差し出したが、肩と肩とをすぐ組んだ。ガッシリ手輿が築かれたのである。
「お乗んなせえまし。さあ姐ご!」
「あいよ、あいよ、ソレ乗るよ」
裾を翻《ひら》めかすと燃え立つ蹴出しだ、火焔が立つかと思ったが、弁天松代ちゃアんと[#「ちゃアんと」に傍点]乗った。
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