手を延ばすと地面から、何かをヒョイと取り上げたが、月に翳《かざ》すと、「やっぱりそうだ!」
「え?」と六人が同音に声を掛けたが首を延ばした。手甲脚半腹掛け姿、軽快至極の扮装《みなり》である。一同お揃いの姿である。
「桔梗様の持ち物の銀簪が落ちていたのさ、これここにね。月が当たってピカピカと光っていたから目付かったのさ」
「それじゃア姐《あね》ごの思惑通り、こっちへ攫《さら》われて来たんだな」腕に蛭子《えびす》の刺青のある小頭の蛭子三郎次である。
「それじゃアどこかに血で書いた、小菊の紙が落ちていなけりゃアならねえ」こう云ったのは十七、八の前髪のある男である。すなわち布袋の市若である。
「ところがどこにもねえようだぜ」四方《あたり》をキョロキョロ見廻わしたのは、三十を一つ二つ越したらしい、顔の細長い男であったが、これ福禄の六兵衛であった。
「なにさなにさ風だって吹く、どこかへ飛ばされて行ったんだろう」こう云ったのは爺むさい小男、他ならぬ寿老人の星右衛門。
「さっき浅草で拾ったのは、これも桔梗様の持ち物? ※[#「王+毒」の「毋」に代えて「母」、第3水準1−88−16]瑁《たいまい》の櫛へ
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