いるからだ――」ある方面での噂であった。町方で探ったところによると、蛭子《えびす》三郎次、布袋《ほてい》の市若、福禄の六兵衛、毘沙門の紋太、寿老人の星右衛門、大黒の次郎、弁天の松代、これが彼らの名であって、弁天の松代が一党の頭《かしら》で、そうして松代は美しい、若い女だということであった。彼らが水上を駛《はし》る時は、宝船に則った軽舟を用い、また陸上を走る時は、彼ら独特の「手組輿」――そういうもので走ったそうである。
 その怪盗の七福神組が、今や走って来たのであった。
 手組輿とは変なものではあるが、要するに七人が七人ながら、心と体とを一つに食っ付け、一緒の行動を取ろうがために、彼らの案じた人間輿で、意味深いものでもなさそうである。しかし七人が心身を一にし、一致の行動をとるのであるから、自由の活動、敏速の歩行、これは出来るに相違ない。
 何んと云う速さだ! 走って来る!
 と、突然女の声がした。「おっと待ったり、お止めお止め!」「合点」と一団止まってしまった。同時にバラバラと手組輿が崩れ、ヒラリと飛び下りたは一人の女で、髪は結綿、鬼鹿子、黄八丈の振り袖を纒っている。頭の弁天松代である。
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