だのに、どんな手段で誘拐されたのだろう?
そうして一式小一郎は、はたして駕籠へ追い付いて、取り返すことが出来るだろうか?
今、月夜の東海道は、人通りがなくて静かである。
と、その時江戸の方から、一つの掛け声が聞こえて来た。「エッサ、エッサ、エッサ、エッサ!」――だんだんそれが近付いて来る。と、間もなく月光に浮かび、畸型な群像が現われた。屈竟な六人の若者が、体をピッタリくっつけ[#「くっつけ」に傍点]合わせ、六本の腕を組み合わせ、巧みに作った「手組輿《てくみこし》」――その上へ一人の女を乗せ、空いている片手で調子を取り、舞うように走って来るのであった。七福神と称されて当時の旗本や大名などに、非常に恐れられた怪盗である。彼らの掛けるエッサの声が、水上であれ陸上であれ、一旦掠めて通った後には、犠牲者が出来たという事である。だが決して細民や、女子供など襲ったことはなく、衣裳だの宝物だの器具調度だの、そんな物を盗んだこともなく、黄金か武器か弾薬かを、唯一に盗んだということである。町方でも苦心して捕えようとしたが、捕えることが出来なかったそうだ。「ある素晴らしく高貴な方が、蔭ながら保護をして
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