逢う。塞翁《さいおう》が馬っていうやつさな」微笑したいような気持ちになった。「それにさ随分変な人間に、一時に紹介されたものさ。隅田のご前という凄いような人物や、七人の異様な無頼漢《ならずもの》達に。……屋敷の構造も変なものであった。……悪人の住家《すみか》ではあるまいかな? あんな所へ桔梗様を置いて、はたして安全が保たれるかな?」これが小一郎には不安であった。だがしかしすぐに打ち消してしまった。「葵の紋服を召していた。では隅田のご前という人物は、高貴な身分に相違ない。それから桔梗様がその人を、叔父様叔父様と呼んでいた。とすると血筋を引いているのだろう。それでは安全と見てもいい」
小一郎の心へは次から次と、昨夜のことが思い出された。
船から上げられて介抱されたこと、濡れた衣裳を干して貰ったこと、別室で桔梗様と二人だけで、しばらく話を交わせたこと……
「昆虫館でのお約束を、反故にしたのではございません」こう桔梗様が云ったこと。「父は憂鬱になりました。『俺は一人で研究したい。娘よ、お前は江戸へ行け! 人間の世を見て来るがいい』こう云って妾を山から出し、人を付けて江戸へ送ってくれました」こ
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