う桔梗様が云ったこと。「その節父が申されました『一式氏は人物である。あのお方とお前との交際を、私は好んでお前へ許す、ついてはあの方を探し出し、この鍵を是非とも手渡しておくれ。雌雄二匹の永生の蝶を、一式氏が手に入れて、もしそれが子供を産んだ際には、この鍵が役に立つかも知れない』――で、お渡し致します」こう桔梗様が云ったこと。等、等、等を思い出した。「一式氏とやら、お暇があったら、時々お遊びにおいでなされ。があらかじめ申し上げて置く、拙者の屋敷の構造や、拙者の行動に関しては、絶対に世間へ洩らされぬように。うち見たところ貴殿には、一個任侠の大丈夫らしい。その中拙者の計画や、心持ちなどもお話し致す。時々遊びに参られるよう。それにどうやら姪の桔梗が、そなたを愛しておられるようで、遊びにおいでなさるがよい」――隅田のご前という人が、云ったことなども思い出した。
「時々どころか毎日でも行って、桔梗様と話をしたいものだ」小一郎は恋しくてならなかった。
「今日も、これから行ってやろう」
フラリと立つと大小を差した。だが何んとなく気が咎める。「気の毒だな、君江には」そこでこっそり[#「こっそり」に傍点]
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