に、休んで考えたということになる。その揚句屋敷へ忍んだとすれば、充分何かを見究めた結果、忍び込んだということになる。……こいつァ只の空家じゃァねえぞ!」
 半九郎ゾッと寒くなった。
「待て待て、待て待て、あわてちゃァいけねえ。這入りは這入ったが出て来たかも知れねえ」
 そこで屋敷をもう一度巡った。出たか出ないかは解らなかったが、少なくも「出た」という証拠はなかった。
 表門、裏門、くぐり[#「くぐり」に傍点]の戸、そいつを押しても見たけれど、内から閂《かんぬき》でも下ろされているのか、貧乏ゆるぎさえしなかった。
「さてこれから何うしたものだ?」
 這入ってみようかとも考えた。
「とんでもねえ」
 と直止めた。
「あの岡八の兄貴さえ、呑み込まれた恐しい屋敷じゃァねえか。いかに昼でも俺等一人で、踏ん込んで行くなァ度胸がよすぎる」
「帰って人数を連て来よう」
 急いで引っ返した半九郎、夜になるのを待ち受けて、十数人の乾児《こぶん》を連れ、お縫様屋敷へ忍び込んだ。
 何を彼等は見ただろう。

     九

 命を助けられた岡引の岡八、家へ帰って正気づくと、
「もう一度あそこへ行って見てえもの
前へ 次へ
全39ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング