]、雑草の中に見覚えのある、岡八の銀口の太煙管が一本ころがっていたからであった。
 拾い上げたがじっと見た。
「別に変わったこともねえ。ただこいつで解ることは、矢っ張り兄貴がお縫様屋敷へ、さぐりに来たということだけさ。いや待てよ!」
 とギョッとした。
「あッ、いけねえ、こんな筈ァねえ!」音に出して叫んだものである。「あのおちついた岡八兄貴、たとえどんなにあわてようと、煙管を落として行く筈はねえ。……にもかかわらず落ちている……ということであってみれば、大事件があったと見なければならねえ。……うん、ここにほごがある。……うん枯草が敷かれている。……休んで一服したんだな? ……さあてそれから、さあてそれから?」
 半九郎あたりを見廻した。
 眼についたは塀の足跡! いや雪駄の跡である。ヒョイと眼を上げると忍び返しが、二三本外側へ曲っている。
「ははあ兄貴、忍び込んだな」
 眼をつむって考えた。
「お縫様屋敷へやって来た。やって来たからには念のため、内を一応は調べるだろう。まあまあこれは尋常だ。が、煙管が落ちている。たしかに休んだ跡がある。……とすると煙管の落ちたのさえ、感づかない程に熱心
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