染吉の朱盆
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)切り仆《たお》した

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)尊皇|攘夷《じょうい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]
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     一

 ぴかり!
 剣光!
 ワッという悲鳴!
 少し[#「 少し」は底本では「  少し」]間を置いてパチンと鍔音。空には満月、地には霜。
 切り仆《たお》したのは一人の武士、黒の紋付、着流し姿、黒頭巾で顔を包んでいる。お誂え通りの辻切仕立、懐中《ふところ》手をして反身になり、人なんかァ殺しゃァしませんよ……といったように悠然と下駄の歯音を、カラーンカラン! 立てて向うへ歩いて行く。
 切り仆されたのは手代風の男、まだヒクヒクうごめいている。手に包を握っている。
 側に屋敷が立っている。立派な屋敷で一軒きりだ。黒板塀、忍び返し、奥に植込が茂っている。周囲は空地、町の灯に遠い。
 その塀に添っ
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