て、カランカラーン、武士はおちついて歩いて行く。
塀について左へ曲がった。
矢張り悠然、矢張り歯音、カラーンカラン! カラーンカラン!
また塀について曲がった途端、
「御用!」
捕手《とりて》だ!
上がったは十手!
武士、ちっとも驚かなかった。
佇むとポンと胸を打った。
「へ――」
と捕方平伏した。
「半刻あまりそこにいろ」
いいすてて、またもカラーンカラン! 綺麗に歯音を霜夜に立て、そうして肩に満月を載せ、町の方へ行ってしまったのである。
切り仆された手代風の男、まだヒクヒクうごめいている。
と、右手から人の足音、雪駄穿きだな、バタバタと聞える。現れたのは職人風の男、死にぞこないにつまずいた。
「おっ!」というとつくばった[#「つくばった」に傍点]。
「しめた!」というと飛び上がった。途端に右手が宙へ躍った。
と、どうしたんだ、あわてたように「しまった!」と叫ぶと引っ返してしまった。どこへ行ったか解らない。
「あッ、取られた、大事な朱盆!」
切られた手代風の男の声! そうしてそれなり、死んでしまった。
数日経った或日のこと、
「ご免下さい」と訪う声。
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