に、休んで考えたということになる。その揚句屋敷へ忍んだとすれば、充分何かを見究めた結果、忍び込んだということになる。……こいつァ只の空家じゃァねえぞ!」
半九郎ゾッと寒くなった。
「待て待て、待て待て、あわてちゃァいけねえ。這入りは這入ったが出て来たかも知れねえ」
そこで屋敷をもう一度巡った。出たか出ないかは解らなかったが、少なくも「出た」という証拠はなかった。
表門、裏門、くぐり[#「くぐり」に傍点]の戸、そいつを押しても見たけれど、内から閂《かんぬき》でも下ろされているのか、貧乏ゆるぎさえしなかった。
「さてこれから何うしたものだ?」
這入ってみようかとも考えた。
「とんでもねえ」
と直止めた。
「あの岡八の兄貴さえ、呑み込まれた恐しい屋敷じゃァねえか。いかに昼でも俺等一人で、踏ん込んで行くなァ度胸がよすぎる」
「帰って人数を連て来よう」
急いで引っ返した半九郎、夜になるのを待ち受けて、十数人の乾児《こぶん》を連れ、お縫様屋敷へ忍び込んだ。
何を彼等は見ただろう。
九
命を助けられた岡引の岡八、家へ帰って正気づくと、
「もう一度あそこへ行って見てえものだ」
真ッ先にこういったものである。
それから又もトロトロと眠った。
すっかり元気が恢復すると、またノッケにいったものである。
「支那の古事にあるっていうが、ありゃァ日本の纐纈《こうきつ》城だなあ」
で、それから話し出した。
「半九、お前にゃァ何んといっていいか、半分はお礼、半分は怨みだ。……俺等お前の話を聞くと、ピシッと心に響いたことがあった。染吉の朱盆の真紅の色と、染吉の衰死という奴さ! ……こいつァ紅毛人の話だが、或る画家がいい色を出すため、自分の体から血を取って、絵具がわりに使ったというが、ははあそれでは染吉という男も、朱盆にそいつを使ったかもしれねえ。朱盆がマア、それはそれとして、俺の手掛ている難事件、いい若い者が姿をかくし、帰って来ると衰死してしまう、こいつに宛てはめたらどうだろうとな? どこかに悪い奴が屯していて、人間の生血を、絞るんじゃァないかな? ……で俺は出かけたってものさ。染吉の朱盆を手に入れてみよう、そうしてそいつを蘭医にでも頼んで、血が雑っているか雑っていないか、真ッ先に調べて貰うことにしよう。朱盆さて古道具屋へ行ってみたが、思うように手に入らねえ。数
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