が少なくて高いんだ。ところがどうだろう凄いような美人が、俺等の邪魔でもするように、先廻りをして買い占めるじゃァねえかそうだよ染吉の朱盆をな、こいつ怪しいと思ったので俺等ドンドン後をつけてみた。すると今度はその女が植甚の店先へ立つじゃァねえか! 知っているだろうが卸問屋だ。うん有名な錦絵のな。ところが一枚死絵があった。それが[#「あった。それが」は底本では「あったそれが」]素晴らしい出来栄なのだ。わけても[#「出来栄なのだ。わけても」は底本では「出来栄なのだわけても」]紫色が素晴らしかった。解った[#「素晴らしかった。解った」は底本では「素晴らしかった解った」]と俺は手を拍とうとしたよ! あの紫色は血で描いたものだ! 血という奴ァはじめは赤い。それから[#「赤い。それから」は底本では「赤いそれから」]褐色《かばいろ》になり緑色になる。そうして終に紫色になる。そいつも並の紫じゃァねえ。何んともいえねえ紫だ! ところで死絵は紅毛人どもが今大変な高い金でドンドンドンドン買い入れている。ははあさてはいよいよ以て、悪い奴等がどこかにいて、人間の生血を絞っては、それで死絵をこしらえているな! そうして、恐らくこの女はそいつらの仲間の一人だな? こいつァどうにも逃されねえわい。で、どこまでもつけたってものさ。鶯谷で襲われっちゃった! うん、五、六人の野郎にな! 岡八だと名乗ると逃げてしまったが、根岸の方へ行ったらしい。で、不意に思ったものさ、ははあ、さてはお縫様屋敷に、悪い奴等はいるのだなと! そうして俺は思ったものだ、あの女はおとり[#「おとり」に傍点]だなと! 凄い程奇麗なあの顔で、若い男をそそのかしたら、どんな野郎だってついて行く、鶯谷でとっ捕まえてしまう! それから屋敷へ連て行くのさ、彼奴等の巣窟のお縫様屋敷へな。……で俺等行ってみた。森閑として人気がないとはいえ俺等考えたものさ。たしかに二十人はいるだろうとな! というのはほかでもねえ、さっき現れた人数を、大体のところ六人と見つもり、おっ[#「おっ」に傍点]振って出て来る筈はねえ、半数出て来たと仮に見ると、〆て十二人はいるだろう。そうして現在行方の知れねえ、若い男が八人ある。合わせて二十人になるじゃァねえか。が、それにしても人気がねえ。ナーニこれだって解釈はつく、それ地下部屋という、ありきたりのものを、勘定の中へ入れればな
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