、
「多門兵衛か」
と声がかかった。
「これは宮様にござりまするか」
然う、そこにお立ちになられたは、いつか山伏風に身をやつされ、その上を蓑笠で蔽《おお》いあそばされた、大塔宮護良親王様と、同じ姿の七人の家来、村上彦四郎義光や、平賀三郎や片岡八郎等であった。
「御武運ひらきますでござります」
云い云い正成は守袋を取り出し、敵に射かけられた矢が身にあたらず、これにあたったことをお物語りした。
「神仏は神仏を信ずる者にのみ、そのあらたかの加護を与うるものじゃ。……人君《じんくん》に忠節を尽くす者は、その全き同じ至誠を以て、神仏を信じ崇《あが》めるものじゃ」と、親王様には厳《おごそ》かに仰せられた。「正成、そちに神仏の加護ある、当然至極のことと思うぞ」
深い感動が人々の心に、一瞬間産まれ出た。
四辺《あたり》の木立を揺がすものは、なお止まない雨と風とであり、闇夜を赤く染めているものは、燃えている赤坂城の火の光であった。
その火の光を眺めては、さすがに正成の心中にも、感慨が湧かざるを得なかった。
河内《かわち》の国の一豪族の身が、一天万乗の君に見出され、たのむぞよとの御言葉を賜《
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