った。
(では)
 と正成は決心し、城の落ちる日を心待ちに待った。
 その間に正成は士卒を督し、城中に大なる穴を掘らせ、堀の中にて討たれた死人の中、二三十人ばかりを持ち来たしその穴の中へ埋没《まいぼつ》させ、その上に炭《すみ》薪《たきぎ》を積み重ねさせた。
 と、幸いにもその翌々日、風雨はげしく荒れた。
(時こそ来たれり)
 と正成は思い、この赤坂城にそれ以前から、お籠《こも》りあそばされた護良親王様《もりながしんのうさま》を、まず第一に落し参らせ、つづいて将卒を落しやり、火かくる[#「火かくる」に傍点]者一人をとどめ置き、舎弟の七郎|正季《まさすえ》や、和田正遠等を従えて、自身も蓑笠《みのかさ》に身をやつし、ひそかに城を忍《しの》び出た。
 それとも知らない寄手の勢は、陣屋陣屋の戸をとざし、この吹降りには城兵といえども、よもや夜討などかけまいと、安心しきって眠っていた。
 と、正成たちは忍びやかに、寄手の陣屋の前を通り、千早の方へ潜行した。
「誰だ!」
 と突然声がかかった。
 寄手の大将長崎|四郎左衛門尉《しろうざえもんのじょう》、この人の陣屋の厩《うまや》の前に、さしかかった時で
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