たが、いつもの夜よりも火光は弱く、衰えの様が感じられた。
「正遠」
と、正成は愉快そうに云った。
「明日は天王寺へ帰ることが出来るぞ」
「は?」
と、正遠はいぶかしそうに、
「では明日わが君には、天王寺をお討ちあそばすので?」
「いや公綱とは戦いはせぬよ。これは以前から決めていることじゃ」
「では如何して天王寺へ、明日お帰りあそばしますか?」
「公綱明朝陣を引き、京都へ帰って行くからじゃ」
「ははあ、公綱退陣しましょうか?」
「あの篝火の衰え様では、明日退陣と見てよかろう」
「…………」
「一戦も交えず正成をして、退かせましてござりますと、これを功にして京に帰らば、公綱の面目は立つからのう」
「これは御意《ぎょい》にござります」
「公綱としてはわしを追い討ち、この陣を破りたく思ってはいようが、それにしては兵が少なすぎる。といって天王寺にとどまっているには、夜な夜な燃える数千の篝が、どうにも気になっておちついて居られぬ。で、結局、帰って行くのじゃ」
「さよう予《あらかじ》めご計画あそばして、天王寺をご退陣あそばしましたので?」
「そうだ」と正成は頷いた。「で、わしは百姓や漁夫や、樵夫
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