《やまがつ》などに命を含め、山々谷々浦々に、あのように篝を焚かせたのじゃよ。……定仏定仏」と湯浅定仏を呼んだ。
「わしは赤坂を落ちる時にも、必ず後日奪回いたすと、こう決心して落ちたのじゃよ」
「は」
と云ったが、湯浅定仏は、何んとない苦笑を頬に浮かべた。
「まこと君にはその後間もなく、赤坂城を復されましてござりまする」
「わしが火をかけて脱け出した城を、其方よく修理してくれたのう」
「…………」
定仏は黙ってまた苦笑した。
それに相違ないからであった。
正成が赤坂城を捨てて出た後へ、六波羅の命で入城し、城を修理して籠もったのは、たしかに湯浅定仏だったのであった。
が、その定仏は正成に攻められ、他愛なく城は乗っ取られ、本人はこのように降将として、正成に仕えているのであった。
苦笑せざるを得ないではないか。
「過去を探り現在を識り、未来を察して世を渡らば、人間間違いはないものじゃ」こう正成は訓《おし》えるように云った。
「武人にとっては合戦こそは、立派な世渡りの術だからのう。未来を察してかからねばならぬよ。……明日天王寺へ帰ったなら、何を置いてもお寺へ参り、未来記を拝見するつも
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