しゆう》を決しようぞ。……やア汝等《おのれら》寸刻といえども、油断をするな、用意怠るな!」
こう部下に命を伝え、自己も鎧の上帯を解《と》かず、部下にも帯を解かしめず、馬の鞍《くら》をも休めようとはせず、まして夜な夜なを眠らず眠らせず、敵の押し寄せ来るを待ちかまえた。
然るにその後も依然として、遠篝《とおかがり》は山々谷々に、また浦々に燃えつづいたが、寄せて来ようとはしなかった。
大将公綱を初めとし、紀清両党の郎党たちも、追々|惰気《だき》を催して来、しかも思い切って心を許し、眠に入ることが出来なかったので、身心次第に疲労《つか》れ衰弱《おとろ》えて、戦意|頓《とみ》に失われ、退陣したいものと思うようになった。
四
天王寺の陣を引いた正成は、数里はなれた櫨子原《しどみばら》に、幔幕《まんまく》ばかりの陣を張り、悠々と機をうかがっていた。
或夜|正遠《まさとお》と定仏《じょうぶつ》とをつれ、陣々をひそかに見回りながら小高い丘の頂まで来た。
はるかの彼方に天王寺があって、その辺に敷いてある公綱《きんつな》の陣から、立ちのぼる篝の火が空に映じ、ほの明るさを見せてい
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