様な不敵の人間、まして術者とござりますれば、不礼を咎めて罪するよりも、恩を掛けてお味方に付け……」
「何かの役に立てろと云うか?」
「仰せの通りにござりまする」
「利休、今日より茶を止めい!」
「え?」と驚いて眼を見張る。
 すると秀吉はカラカラと笑い、
「何も驚くことは無いわ。器量ある男と云った迄じゃ。茶を止めて采配を握ったなら、如水ぐらいには成れようも知れぬ。よいよい其方の言葉に従い、其奴捕えて幕下として細作なんどに使うとしょうぞ」
 斯うして翌日から諸方に向かって不敵の術者捜索の為めの多勢の人数が配られた。そして其結果見付け出されたものこそ、この物語の主人公、赤格子と後年字名を呼ばれた梶原九郎右衛門教之であった。
 此時、九郎右衛門は十五歳、産れは九州天草島、郡領房雪の末子であった。
 豊公歿後、仕を辞し、徳川氏の代になってからは、彼は陸上に望を断ち、海に向かって発展した。即ち博多の大富豪島井宗室の大参謀となり、朝鮮、呂宋、暹羅、安南に、御朱印船の長として、貿易事業を進めたのである。
 彼は復《また》居合の名人であった。それに就いて一つの逸話がある。

「一人の老いた侍が静かに歩
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