の安否を知りたいばかりに叛将イルマを捉えながら[#「捉えながら」は底本では「捉へながら」]、早速に誅罰を加えようともせず、却って彼の申し出に従い其方を加えて十人の勇士を、憎む可き彼の毒刃の前に、おめおめ晒した次第でござるよ。と申すのは彼の口から皇子の成行を聞きたかったからじゃ……が其希望も今は絶えて、イルマは此通り死んで了った! 語る可き口も閉じられて了った!」
「あいや其儀でござりましたら、必ずご心配はご無用でござります」
私は思わず大声で、斯う叫んだのでござりました。驚き審かる両陛下の前で、それから私は細々とカンボ・コマ皇子をお救助け致した、五年以前の出来事を、申し上げたのでござります――。
此処まで九郎右衛門は語って来ると、感慨深そうに[#「感慨深そうに」は底本では「感概深そうに」]瞑目した。そうして暫く黙っていた。一座の者も押し黙って咳《しわぶき》一つ為る者も無い。――軈て、忠清は斯う云って訊いた。――
「……フウム、左様か、五年以前に、柬埔寨国の皇太子、カンボ・コマ皇子を其方が、お救助け致したと申すのじゃな? 面白そうな話じゃの。それを詳細く聞かしてくれい」
「かしこま
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