した時、松火の光に照らされて、一人の大男が血に染みながら床の上に斃れて居りますのを、私は明瞭《はっきり》り[#「明瞭《はっきり》り」はママ]認めましたが、それこそ決闘の相手でした。
「イルマ将軍とも云われた者が、いかに悪行の酬いとは云え[#「云え」は底本では「云へ」]、この死態《しにざま》は何事じゃ! ……おお天晴れな日本の勇士! よくぞお援助下された。柬埔寨国の国王アラカンが厚くお礼を申しますぞ」
「や!」と思わず此の私は、神々しい迄に威厳のある、其人の姿を見詰めましたが「それでは貴郎様は柬埔寨国のアラカン王陛下でござりましたか?」――「左様」と其人は頷きましたが「そして此処に居る此婦人は、朕が連れ合い、即ち、王妃!」
「王陛下と王妃陛下! ホホウ、左様にござりましたか。さりとも存ぜず意外の失礼、何卒お許し下さりますよう。偖《さて》、王陛下と承まわり、お尋ね致し度き一義ござります。……今より大略《おおよそ》五年以前に、皇太子におわすカンボ・コマ殿下、悪人共の毒手に渡り、お行方不明になられませなんだかな?」
「おお如何にも其通り、行方解らずなり申した。……そして其行方を突き止めて、コマ
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