た。即ち、抜身を持っているが為めに、刀気走って身を隠すことが出来ず、闇討の憂目に逢うのです。
私は、そうやって戸の面へ、ピッタリ体を食付けたまま静かに暗中を隙かして見ました。
果然、相手の居所が、抜身を握って居たが為に、自と私に解って参りました。私の立っている戸口から、斜めに当たる室の隅に、刀気が仄かに白々と走っているではござりませぬか。
「よし。勝利は此方のものだ!」私は思わず心の中で斯う呟いたものでした。
そうして本当に其決闘は私の勝に帰しました。――ハッと私が気息を弛める。そこを狙って突いて来た。と直ぐ除けて入身になる。一髪の間に束を廻わし、「カーッ」と一声掛けると同時に胴切にしたのでござります。
ばったり[#「ばったり」に傍点]床へ仆《たお》れる音。ムーと呻く苦しそうな声。そして静かになりました。
「しまった」と、其時、思わず私は、大声を上げて了いました。深手を負わせるという約束に背いて時の逸《はず》みとは云い乍ら、切り殺したように思われたからです。
扉が開かれ、松火が点され、神々しい威厳を体に持たせた二人の男女を中にして、覆面の水夫達数十人が、室の中へ這入って参りま
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