りましてござります」
 其処で九郎右衛門は改めて、その事件に就いて物語った。
 その物語は既に以前に、九郎右衛門に代って此|作者《わたし》が、大略書き綴った筈である。……
 兎に角、斯うして九郎右衛門は、王ご夫婦と皇子とを、お救助けすることが出来たのであった。親子の対面が行われた時、どんなに皆が歓喜したか? 説明にも及ぶまい。
 間も無く王朝は恢復された。そうして日本と柬埔寨国との通商貿易も行われるようになった。
「しかし、どうして王、王妃は、叛軍共の目を眩まして、牢獄から出ることが出来たのであろう?」
 ――審《いぶ》かしそうに忠清は訊いた……。
「忠義の臣下が、隙を伺い、盗み出したのだそうでござります。……覆面をした水夫の群こそ、その臣下達でござりました」
「浮沈自由の奇怪の船、その後何んと致したな?」
「撃沈めましてござります」
「それは又何故に沈めたか?」「兵器は兇器でござります故……」
「如何にも左様じゃの」と、酒井忠清は、呟き乍ら頷いた。
「左様な兇器の働かぬ世が、どうぞ何時迄も続くように」
「御世は万歳でござります!」赤格子九郎右衛門は老いても鋭い、その両眼を輝かせ乍ら斯
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