しきり》で、止んだ後は尚さびしい。
 藪がにわかにガサガサと揺れた。
 ひょい[#「ひょい」に傍点]と黒い人影が出る。頬冠りに尻|端折《はしょ》り、腰の辺りに削竹が五六本たばね[#「たばね」に傍点]られて差さっている。四辺《あたり》を静かに窺ってからつと[#「つと」に傍点]死骸へ近寄った。死骸の懐中《ふところ》へ手を突っ込むと財布をズルズルと引き出した。自分の懐中へツルリと入れる。雲切れがして星が出た。
 仄かに曲者の顔を照らす。
 曲者は下男の忠蔵であった。

「白糸」「削竹」のこの二つは、当時大阪を横行していた一群の怪賊の合言葉であった。そうして慣用の符号《マーク》でもあった。
 白い糸屑を付けられた「者」は必ず殺されなければならなかった。――又白い糸屑を付けられた「家」は必ず襲われなければならなかった。
 この怪奇な盗賊の群は今から数えて半年程前から大阪市中へは現われたのであって、一旦現われるや倏忽の間にその勢力を逞しゅうし、大阪市人の恐怖となった。
 噂によれば彼等の群はほとんど百人もあるらしく、しかも頭領は人もあろうに妙齢の美女だということであった。――彼等は平気で殺人もした
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