ござらぬか!」
「き、貴殿の……せ、背中に……」
「拙者の背中に何がござるな?」
「し、白い、……い、糸屑が……」
「ヒエーッ」と、利右衛門はのけぞっ[#「のけぞっ」に傍点]たが、よろよろと二三歩後へ退った。
 ……と見るや彦七の背中にも一房の白糸が下っている。
「や、や、貴殿の背中にも。……やっぱり同じ白糸が!」
「うわ!」と彦七はそれを聞くと、生気地なくベタベタと地へ坐った。
「エイ!」と右手の藪陰からその時に鋭い掛声が掛かった。
「うむう」と同時に呻き声がした。クルリ体を廻したかと思うと、仰向けに利右衛門は転がった。鋭利な削竹《そぎたけ》が節元まで深く咽喉に差さっている。
「人殺し!」と、彦七はやにわに喚いて飛び上ったが、
 それより早く藪陰からまたも同じ掛声がした。……声《こえ》と一|緒《しょ》に彦《ひこ》七も霜の大地へころがった。
 削竹が咽喉に立っている。

大阪界隈怪盗横行
 後は森然《しん》と静かである。
 さっきから今にも泣き出しそうにどんより[#「どんより」に傍点]曇っていた低い空から霙《みぞれ》がパラパラと降って来たが、それさえほん[#「ほん」に傍点]の一|瞬間《
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