玉造に家があったのでこれも一緒に帰ることになった。二人はお菊に送られて、定まらぬ足付きで玄関まで来ると、掛けてあった合羽を取ろうとした。
「いえお着せ致しましょう」
 お菊が代わって素早く取る。
「これはこれは恐縮千万」
 など、二人は云いながらも、素晴らしい別嬪の優しい手でフワリと肩へ掛けられるのだから悪い気持もしないらしい。戸外《そと》には下男の忠蔵が、身分にも似ない小粋な様子で提燈《ちょうちん》を持って立っていたが、
「|戎ノ宮《えびすのみや》の藪畳まで、私めお送り申しましょう」
「それには及ばぬ、結構々々。……折角のご主人のご厚意じゃ提燈だけは借りて参ろう」
 云いながら利右衛門は手を出した。忠蔵はちょっと渋ったが、それでも提燈は手渡した。
「では、お菊様、よろしくな」
 云いすてて二人は歩き出す。
「お大事においで遊ばしませ」
 お菊はつつましく手を突いて二人の姿を見送ったが、その眼を返すと忠蔵を見た。
 と、忠蔵もお菊を見た。
 二人は意味深く笑ったものである。

 霜夜に凍った田舎路を、一つの提燈に先を照らし、彦七と利右衛門とは歩いて行く。
「お互い金は欲しいものじゃ」

前へ 次へ
全37ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング