手に捕えられたのじゃ。……いや全く今から思ってもあれ[#「あれ」に傍点]は大きな捕物であったよ」
「はい左様でございますとも」
鈴木利右衛門が膝を進めた。
「まさか海賊赤格子が身分を隠して陸へ上り、安治川《あじかわ》一丁目へ酒屋を出し梶屋などという屋号まで付けて商売をやって居ようなどとは夢にも存ぜず居りました所へ、重右衛門の訴人で左様と知った時には仰天したものでございます。……番太まで加えて百人余り、キリキリと家は取り巻いたものの相手は名に負う赤格子です、どんな策略があろうも知れずと、今でこそお話し致しますが尻込みしたものでございます」
「九郎右衛門めは奥の座敷で酒を呑んでいたそうじゃな」
「我々を見ても驚きもせず、悠々と呑んで居りました。その大胆さ小面憎さ、思わずカッと致しまして、飛び込んで行ったものでございます」
「そうしてお前がたった一人で家の中へ飛び込んで行き、九郎右衛門に傷《て》を負わせたため、さすがの九郎右衛門も自由を失い捕えられたということじゃな」
「先ず左様でございますな」
利右衛門はいくらか得意そうに、こう云って頭を下げたものである。
先刻《さっき》から恐ろしい
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