第。とは云え性来の海賊ではなく産れは播州赤穂城下、塩田業山屋こそは私の実家でござります。……
「何」と卜翁は驚いた。
「山屋の倅《せがれ》というからには、このお袖とは兄妹じゃ。それを殺すとは不思議千万。待て待て後を読んで見よう」

この危難に三味線の音
 ――手紙の文字は尚つづく。
「……知らぬこととは云いながら兄妹契りを結ぶとは取りも直さず畜生道。二人ながら活きては居られず、かつは頭領《かしら》の命令《いいつけ》もあり、今宵忍んで妹めを打ち果たしましてござります。……」
 ここまで読んで来て卜翁は初めて意味が解ったと見え、手紙をクルクルと巻き納めた。それからお袖の側《そば》へ寄り静かに体を抱き起こした。
 もう呼吸《いき》は絶えている。
 卜翁は忠蔵を抱き起こした。
 と、忠蔵は眼を開けた。
「これ忠蔵」と忍び音に卜翁は耳元で呼ばった。
「様子は解った気の毒な身の上。卜翁の命を狙ったことも決して怨みには思わぬぞ。お袖は死んだ。お前も死ね」
「ああ有難う存じます」
「ただし一つ合点のゆかぬは、山屋を滅ぼした赤格子一家は其方《そち》の仇じゃ。しかるを何故その赤格子の一味徒党とはなったるぞ
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