ゃお前は泥棒だね!」
「今それに気がお付きか! こう見えても女賊の張本赤格子九郎右衛門の娘だよ!」
「泥棒! 泥棒!」と喚き立てる夜鷹。
「ええ八釜敷《やかましい》!」とサット突く。
 ドンという水の音。パッと立つ水煙り。夜鷹は木津川へ投げ込まれた。
 その時、黒い人影が川下の方から走って来たが、
「そこに居るのは姐御じゃねえか」
 近寄るままに声を掛ける。
「ああ忠さんかいどうおしだえ?」
「ひでえ目に逢いましたよ」
「眼端の鋭いお前さんが、酷い目に逢ったとは面白いね。何を一体|縮尻《しくじっ》たんだえ?」
「何ね中之島の蔵屋敷前で、老人《としより》の武士《りゃんこ》を叩斬り、懐中物を抜いたはいいが、桜川辺りの往来でそいつを落としてしまったんだ。つまらない目にあいやしたよ」
 聞くとお菊はプッと吹き出し、
「落とした金は二百両かえ?」
「へえ、いかにも二百両で……」
「革の財布に入れたままで?」
「こりゃ面妖だ。こいつア不思議だ!」
「女を買うもいいけれど、夜鷹だけは止めたがいいね」
「…………」
「何だ詰まらないお前の金か。無益の殺生したものさね。……さあ返すよ。それお取り」


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