がされているのではござりますまいか?」
「もしそうなら面白いの」
「いえ勿体なく存じます」
「お前ひとつ探してはどうか」
「は。さようで。探し出しましょうか」
「好事家《こうずか》で名高いお前のことだ。探し出したらはなすまいよ」
「いえ、ご連枝様に差し上げます」
「これこれ何だ雲州の爺《おやじ》、いちいち極東のカリフ様だの、ご連枝様だのと呼ばないがよい。わし[#「わし」に傍点]とお前とは話相手ではないか。わしの名を呼べ、慶正《よしまさ》と呼べ」
「ハッ、ハッ、ハッ、呼びましょうかな」
聞くともなしに聞いていた宮川茅野雄はこの言葉を聞くと、
「ははあ」と、呟《つぶや》かざるを得なかった。二人の身分がわかったからである。
極東のカリフ様と呼ばれたり、ご連枝様と呼ばれたりする武士は、奇矯と大胆と仁慈と正義と、平民的とで名を知られている、一ツ橋大納言の弟にあたられる、徳川慶正卿その人であり、雲州の爺と呼ばれている武士は、出雲松江侯の傍流の隠居で、蝦夷《えぞ》や韃靼《だったん》や天竺《てんじく》や高砂《たかさご》や、シャムロの国へまで手を延ばして、珍器名什を蒐集することによって、これまた世人
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