生死卍巴
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)後夜《ごや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)松平|碩寿翁《せきじゅおう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
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占われたる運命は?

「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」
 こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜《ごや》を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに立っている旗本屋敷の、家根の甍《いらか》が光って見えた。土塀を食《は》み出して夕顔の花が、それこそ女の顔のように、白くぽっかりと浮いて見えるのが、凄艶の趣きを充分に添えた。
 その夕顔の花の下に立って、そう美女が侍を呼びかけたのであった。
「わしの運命を買えというのか、面白いことを申す女だ」
 青木昆陽の門下であって、三年あまり長崎へ行って、蘭人について蘭学を学んだ二十五歳の若侍の、宮川茅野雄《みやかわちのお》は行きかかった足を、後《あと》
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