や椰子の実や、土耳古《トルコ》製らしい偃月刀《えんげつとう》や、亜剌比亜人の巻くターバンの片《きれ》や、中身のなくなっている酒の瓶や、刺繍した靴や木彫りの面や、紅、青、紫の宝玉類を、異様に美々しく装飾し、もしそれが夜であろうものなら、南京龕に燈《とも》された火が、やはり硝子や異国の器具類を、これは神秘的に色彩るのであった。
しかしこれらの部屋の構造も、そこに置かれてある異国の古道具も、今日の眼から見る時には、安物でなければ贋物なのであって、誠に価値のある物といえば、皆無と云ってもよいほどであった。いやもっと率直に云えば、享保年間のその時代においても、少し利口な人間であり、長崎などと往来し、紅毛人などと親しくし、多少商才のある人間であったから、こういう部屋の構造や、こういう異国の古道具などは、造ることも出来れば蒐《あつ》めることも出来、したがって高価に売りつけることも、苦心もせずに出来るのであった。だがもしそれが反対となって、異国の事情を知らない者などが、この部屋へ入って来ようものなら、何から何までが怪奇に見え、高雅に見えることであろう。
とまれこういう部屋を持った、刑部屋敷という一
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