ところの、無数の木箱が置かれてあって、中に入れてある古道具類を、硝子越しに見ることが出来た。
構造と云ってもこれだけなのであった。
しかし日本のこの時代においては、硝子というものが尊く珍らしく、容易に入手することが出来ない。その硝子を無数に使っているのである。変にも奇にも見えたことであろう。その上に壁の合間などに、波斯《ペルシャ》織りだの亜剌比亜《アラビア》織りだのの、高価らしい華麗な壁掛けなどが、現代の眼から見る時には、ペンキ画ぐらいしかの値打《かち》しかない――しかし享保の昔にあっては、谷《きわ》めて高雅に思われるところの、油絵の金縁の額などと一緒に、物々しくかけられてあるのであるから、見る人の眼を奪うには足りた。のみならず高い天井などからは、瓔珞《ようらく》を垂らした南京龕《ナンキンずし》などが、これも物々しく下げられてあるので、見る人の眼を奪うには足りた。で、日中であろうものなら、硝子窓から射して来る日光《ひかり》が、蒐集棚の硝子にあたり、蒐集木箱の硝子にあたり、五彩の虹のような光を放ち、それらの奥所《おくど》に置かれてあるところの、古い異国の神像や、耳環や木乃伊《ミイラ》
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