箔を付けようとして、勿体《もったい》をつけるものであるが、刑部といえどもそうであった。第一にめったに人に逢わず、第二に諸家様から招かれても、容易なことには出て行かず、物を買ったり売ったりする時にも、お世辞らしいことは云わなかった。しかし一体に古物商には、変人奇人があるものであるから、刑部のそうした勿体ぶった様子は、あるいは加工的の勿体ぶりではなくて、本質的のものなのかもしれない。
が、とりわけ勿体的であり、また変奇的であるものといえば、刑部の家の構造であろう。いやいや家の構造というより、古道具類を置き並べてある、――現代の言葉で云ったならば――蒐集室の構造であろう。
しかし、それとても昭和の人間の、科学的の眼から見る時には、別に変奇なものではなかった。窓々に硝子《ガラス》が篏めてあって、採光が巧妙に出来ている。四方の壁には棚があったが、それが無数に仕切られていて、一つ一つの区画の面《おもて》に、同じく硝子が篏め込まれてあり、その中に置かれてある古道具類を、硝子越しに仔細に見ることが出来た。部屋の板敷きには幾個《いくつ》も幾個も、脚高の台が置かれてあったが、その台の上にも硝子を篏めた
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