軒の家《うち》が、その左隣りに没落をして、廃墟めいた姿をさらしている、勘解由千賀子の屋敷を持ち、周囲に貧民の家々を持って、かなり豪奢に立っているのであった。
ところで当主の刑部という男は、そもそもどんな人物なのであろう。
年は六十で痩せていて、狡猾尊大な風貌をしていて、道服めいた着物を着ていて、手に払子《ほっす》めいたたたき[#「たたき」に傍点]を持ち、絶えず口の中で何かを呟き、隙のない眼でジロジロ見廻す。――と云ったような人物であった。
しかし刑部はめったのことには、蒐集室へは現われなかった。いつも奥の部屋にいるのであった。とはいえ見張ってはいるものと見えて、いかがわしい客などが入り込んで来ると、扉をあけてチョロチョロと入って来て、払子を揮って追い出したりした。
宝石や貴金属の鑑定には、名人だという噂があり、贓品《ぞうひん》などをも秘密に買って、秘密に売るという噂もあった。で、大家の若旦那とか、ないしは富豪の妻妾などが、こっそり金の用途があって、まとまった金の欲しい時には、そうした宝石や貴金属を、ひそかにここへ持ち込んで来て、買い取って貰うということである。と、それとは反対に
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